東北の冬は静かです。 しんと冷え込む朝、薪ストーブやヒーターの音を聞きながら、手回しや小型の焙煎機で豆を焼き、1杯のコーヒーを淹れる。湯気とともに広がる香りと向き合うその数十分間だけが、自分にとって唯一、呼吸が深くなる時間でした。
当時の僕は、どこか焦っていました。 社会の中で「もっと成果を出さなければ」「規模を大きくしなければ」「稼がなければ」という目に見えない価値観に追われ、日々を駆け抜けていました。
ビジネスとして売上や効率を求めることは、決して悪いことではありません。 けれど、数字やスピードを追いかければ追いかけるほど、自分の足元や、本来大切にしたいはずの「日々の暮らし」がすり減っていくような感覚がありました。
「自分は本当に、このスピード感のまま生きていきたいのだろうか?」
そんな自問自答を繰り返す中で頭に浮かんだのが、以前訪れた沖縄の風景と空気感でした。
沖縄の風と「ゆくる」時間
沖縄には、東北のピリッとした静寂とは異なる、あたたかく豊かな時間が流れています。
青い海を渡ってくる潮風、青々としたガジュマルの葉を揺らす光、そして地元の人々が自然体で大切にしている「ゆくる(くつろぐ・休む)」という文化。
そこには、効率や生産性だけでは測れない、「人間が人間らしく、心地よく生きるためのリズム」が確かに存在していました。
「たくさん稼いで大きな店をつくること」を目指すのではなく、沖縄の自然や文化の中に溶け込みながら、「自分が心から納得できる最高の1杯を丁寧に淹れること」。
そして、その1杯を通じて出会う人たちと豊かな時間を分かち合い、自分たちの足元にある暮らしを慈しむこと。
それこそが、僕たちが求めていた「自分らしい暮らし」の形だったのです。
東北から沖縄へ、手放すことで見えたもの
慣れ親しんだ東北を離れ、遠く離れた沖縄へ移住すること。 それまで積み重ねてきた環境や「こうあるべきだ」という固定観念を手放すことには、もちろん勇気が必要でした。
けれど、「稼ぐため」の生き方を一歩手放してみたことで、自分が本当にやりたかった「Quru Coffee & 96 Coffee Roastery」の姿がはっきりと見えてきました。
オールドシュイレンブルク(Schuilenburg)の焙煎機とともに、沖縄の風を感じながら豆と向き合う日々を妄想しています。
次回は、この「Quru Coffee & 96 Coffee Roastery」という少し変わった店名に込めた想いと、沖縄で僕たちがつくろうとしている居場所についてお話ししたいと思います。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。